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大阪地方裁判所岸和田支部 昭和63年(ワ)226号 判決

原告 有限会社 日新住宅

右代表者代表取締役 清水君子

右訴訟代理人弁護士 正木孝明

同 桜井健雄

同 井上英昭

被告 安本東一

右訴訟代理人弁護士 北方貞男

主文

被告は原告に対し四三二三万三九七〇円及びこれに対する昭和六三年八月五日から年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二十分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し四五六三万四三六七円及びこれに対する昭和六三年八月五日から年六分の割合による金員の支払を求める。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、貸金業を営むものである。

2  原告は、昭和六一年一二月六日に被告から、弁済期昭和六二年三月六日、利息二五〇〇万円の約定で、一億円を借り受けた。

3  原告は、以下のとおり、右借受金の利息、元本として支払った。

(一) 昭和六二年三月三日 一二五〇万円

(二) 同年三月三一日 三〇〇万円

(三) 同年四月九日 二五〇万円

(四) 同年四月一五日 二〇〇万円

(五) 同年四月二三日 二五六万二〇〇〇円

(六) 同年四月三〇日 二五六万二〇〇〇円

(七) 同年六月五日 七五〇〇万円

(八) 同年六月一六日 一五〇万円

(九) 同年六月二三日 一〇〇万円

(十) 同年七月六日 五〇〇〇万円(仮に七月六日に支払ったのでなくとも、同年八月三日に支払った。)

4  3の各弁済額について、利息制限法所定の利率により計算した金額を超える額をそれぞれ元本に充当していくと、別紙計算表(一)のとおり、元本は完済し、四五六三万四三六七円の過払いとなっている。

5  原告の不当利得金返還請求権

(一) 原告は、被告から2の金員を借り受けた際に、別紙物件目録記載の不動産に、被告のために根抵当権を設定した。原告は、同目録記載の1ないし22の各土地(以下「本件売買物件」という。)を、和興開発株式会社に根抵当権付きのままで売却し、代金については原告に支払う代わりに、被告に右借受金の弁済として一億二五〇〇万円を支払うこととする旨合意し、同社は、右合意に基づき被告に合計一億二五〇〇万円を支払った。したがって、(3)(十)の五〇〇〇万円の弁済も和興開発ではなくて原告の出捐によりなされたものであるから、原告に不当利得金返還請求権があるというべきである。

(二) 原告は、残金の五〇〇〇万円の支払のために、和興開発から五〇〇〇万円を借り受ける旨合意し、右五〇〇〇万円を原告ではなくて被告に対して交付してもらい、和興開発に対する返済に代えて本件売買物件を譲渡し、登記を移転した。右五〇〇〇万円は、和興開発が交付したといっても、原告が同社から借り受けて支払ったのであるから、原告に不当利得金返還請求権がある。

(三) 和興開発は、原告の委託を受けて、原告の被告に対する借受金債務につき連帯保証をし、連帯保証人として和興開発が被告に対して支払い、前記の不当利得が生じた。このように第三者が債務者の委託に基づき債権者に弁済をした場合、債務者債権者間の法律関係に瑕疵が存在したときには、第三者の給付行為は債務者債権者間の法律関係の瑕疵に関係なく有効に成立し、第三者は債務者に対して費用償還請求権を有するとともに、債務者は債権者に対して給付利得返還請求権を取得するというべきである。したがって、債務者である原告は債権者である被告に対して不当利得金返還請求権がある。

6  よって、原告は、被告に対し、不当利得金返還請求権に基づき、四五六三万四三六七円及びこれに対する右金員の支払請求の日の翌日である昭和六三年八月五日から商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因一の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告の原告に対する貸付の事実は認めるが、貸付額については否認する。貸付額は一億二五〇〇万円である。

3  同3の(一)は否認する。原告主張の日に、有限会社紫耀が、一一二五万円を支払った。

同3の(二)ないし(七)は認める。但し、弁済したのは(二)ないし(六)については紫耀であり、(七)については和興開発である。

同3の(八)、(九)の弁済の事実は否認する。

同3の(十)の原告主張の日の支払は否認する。昭和六二年七月六日に現実の支払はなく、被告は、同日、和興開発から同額面の約束手形の交付を受け、右約束手形は支払期日である同年八月三日に決済されたものである。

4  同4の主張は争う。

5  同5の主張のうち、和興開発が連帯保証人として被告に弁済したことは認め、その余は争う。

債務者原告の債権者被告に対する給付利得返還請求権は第三者和興開発の出捐が原告の費用償還により原告に転嫁された場合にはじめて原告に損失があることになり、その場合にのみ発生するものというべきである。本件において、和興開発は、原告に対して費用償還請求権を行使する意思は全くなく、現に請求していないから、原告に損失の発生はない。

本件において、和興開発は、単に債務者の依頼によって第三者の弁済をしたのではなく、連帯保証人として弁済したのであり、①連帯保証人と債権者の関係は、単なる出捐関係ではなく、給付関係であり、連帯保証人が利息制限法所定の制限利息の超過部分を支払った場合は、存在しない保証債務を履行したことになり、連帯保証人の債権者に対する給付利得返還請求権が発生すること、②委託を受けた保証人の求償権は、自己の出捐をもって債務を消滅させる行為をしたときに発生するものであり、利息制限法所定の制限利息の超過部分についてはもともと債務は不存在であって、これについて連帯保証人が支払っても、求償権は発生しないこと、③連帯保証人が債権者から履行を求められるのは債務者が無資力の場合がほとんどであり、資力のある債権者に対する給付利得返還請求を認めないで無資力の債務者に対する費用償還請求権を認めるのでは、かえって連帯保証人の損失の回復を困難にするものであって不適当であることに鑑みると、債権者に対する不当利得返還請求権は、連帯保証人である和興開発のみが有し、主たる債務者である被告にはないというべきである。

第三証拠《省略》

理由

一  不当利得の金額

1  被告から原告に対して昭和六一年一二月六日に貸付がなされたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被告は、原告に対して、貸付金額一億二五〇〇万円として、月六パーセント、三か月分の利息二二五〇万円を差し引き、その他に別紙物件目録記載の不動産の根抵当権設定等諸手続費用の名目で二五〇万円を天引きして一億円を渡したことが認められ、結局原告が実際に本件貸付で交付を受けたのは一億円である。

2  原告は、昭和六二年三月三日に、本件借受金につき、一二五〇万円を支払ったと主張するが、《証拠省略》によれば、紫耀が、原告の主張の日に、原告の資金で、一一二五万円を支払ったことが認められ、右原告主張の支払金額を認めるに足りる証拠はない。請求原因2の(二)ないし(七)の弁済については、当事者間に争いがなく、実際に被告に支払ったのが、原告自身か、和興開発かについては争いがあるけれども、その如何に関わりなく、利息制限法所定の制限利率をこえる金額は当然に残存元本に充当されるというべきである。

《証拠省略》によれば、昭和六二年六月五日の支払期日に交換呈示された紫耀振出の約束手形一二通の決済のために、和興開発が七五〇〇万円を、被告が五〇〇〇万円を紫耀の口座に振り込んだこと、和興開発が被告の拠出した五〇〇〇万円分について支払期日を二か月後とする約束手形によって支払うことになり、それまでの利息として原告が額面一五〇万円の小切手を振り出したこと、右小切手は決済されず、原告が被告に対して同月一六日ころに五〇万円を、同月二三日ころに一〇〇万円を支払ったこと、右和興開発振出の約束手形は、同年八月三日に決済されたことが認められる。原告は、同年六月一六日に一五〇万円を支払ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。原告は、和興開発から五〇〇〇万円を被告に交付するとの合意で借り受け、同年七月六日に被告に支払ったと主張し、これに沿う原告代表者の供述部分があるが、これを裏付ける証拠もなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。右五〇〇〇万円は和興開発が弁済したものであるが、右弁済金のうち利息制限法所定の制限利率をこえる金額は当然に残存元本に充当され、計算上元本が完済されれば、それをこえて支払った金額は不当利得金返還請求権者が返還を求めることができるものであるというべきである。

3  以上に認定した原告ないし紫耀、和興開発による本件借受金の弁済について、利息制限法所定の制限利息をこえる支払を、順次残存元本に充当すると、別紙計算表(二)記載のとおり、四三二三万三九七〇円の過払いとなっている。

二  不当利得金の返還請求権者

《証拠省略》によれば、原告は、本件貸金債務の連帯保証人であった和興開発に対して、本件借受について一億二五〇〇万円を被告に支払うように依頼し、その代償として本件売買物件を同社に譲渡することを約し、これについては契約書を作成せずに、昭和六二年六月五日に所有権移転登記手続をしたこと、同社が、右合意に基づき、七五〇〇万円については同日被告に対して支払い、五〇〇〇万円について同年八月三日の支払期日の約束手形を振り出して右期日に決済したこと、被告が和興開発に対して連帯保証債務の責任を追及していたわけではないことが認められる。(なお、和興開発が右金員の支払をしなくとも原告が右七五〇〇万円支払のころに本件売買物件を譲渡したはずであるという事情を見い出すことはできず、原告側の和興開発に対するそれまでの金銭債務を清算するために本件売買物件を譲渡したとみることはできない。)

そうすると、原告は、和興開発に対して、元本完済後の超過部分を含めて右金員を支払うことを委託し、このために必要な費用の支払に代えて本件売買物件を譲渡したのであり、和興開発は、原告の委託とは無関係に自己の費用で連帯保証債務を弁済したものではなく、原告の負担において元本完済後の超過部分を含んだ金員が支払われ、原告の損失において被告は元本完済後の超過部分の利得を受けたというべきである。したがって、原告は、前記不当利得金の返還請求権を有する。

なお、原告から右のような支払の委託がなく、和興開発が単に連帯保証債務の弁済として右金員を支払った場合であれば、被告の指摘するとおり、利息制限法所定の制限利息をこえる部分につき債務は不存在であるから、連帯保証人は、主たる債務者に求償することはできず、債権者に不当利得金として返還請求すべきことになり、その方が損失を被った保証人の利益になると解する余地もある。しかし、右のような支払の委託がありその費用を支出している場合は、和興開発が連帯保証人の地位にあったとしても、右の理をあてはめることはできない。

三  被告が貸金業者であることは当事者間に争いがなく、貸金業者の業務上の貸金に関する利息制限法違反により生じた不当利得金返還についての遅延損害金については、商事法定利率によるのが相当である。

以上のとおり、被告は、原告に対して、不当利得金四三二三万三九七〇円及びこれに対する請求のあった日の翌日(昭和六三年八月五日であることは、裁判所に顕著な事実である。)から商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よって、原告の請求は右の限度で理由があるから認容し、その余の部分については失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栂村明剛)

〈以下省略〉

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